「統一教会問題」と「ホスト問題」の意外な共通点とは【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「統一教会問題」と「ホスト問題」の意外な共通点とは【仲正昌樹】

他人には愚かに見える「自己決定」をどう考えるのか? 「自由意志による契約」とはそもそも何か?

写真:PIXTA

 

 問題は、それをMCだから無効だと判断していいのか、その場合、何がMCとそうでない単なる「他人による働きかけ」を分ける基準なのか、ということだ。

 他人の言葉に影響されて、自分にはこの選択肢しかないと思い込んでしまうことをMCと呼ぶのであれば、人間は生まれた時から絶えずMCし合っていて、どれが本当に自分の自発的意志と言えるのか分からなくなっている、と言わざるを得ない。

 例えば、九〇%以上の日本人は高校に進学するが、自分がいつどういう理由で高校進学を決めたかはっきり記憶している人はどれくらいいるだろうか。私は時々授業で聞くが、記憶があるという学生に会ったことがない。大学生になるという自己決定さえ、はっきり記憶している人はほとんどいないだろう。日本人として生きるとか、日本語を母国語にするとかだと、そういう自己決定があるということを考えたことさえないだろう――世界には、それを決定することを迫られる人も少なくない。趣味、職業、恋愛・結婚などに関する志向も、基本的な方向性は他人の影響でいつのまにか決まっている。仏教の檀家や神道の氏子などの立場も、生まれた時にほぼ決まっていて、大人になるまでのいつかはっきりしない時点で、事後承諾している、ということが多いだろう。

 中には、その人の人生を明らかに悪い方向に向かわせる影響というのはあるだろう。それを、許されない悪質なMCと呼ぶことにしてもいいが、誰がどういうことをやったら、悪質なのかを特定するのは難しい。その人との関係性で、許される影響の範囲や強さは当然変わるだろうが、近い身内ほど悪い影響を与えている場合もある――そうでなかったら、「宗教二世問題」など存在しないだろう。

 統一教会問題では、専門家がMCの影響を指摘していると言う人もいるだろうが、心理学者でMCを研究している人はごく少数であり、心理学の代表的な辞典・教科書類では、一部でコラム的な扱いをされているだけで、明確な定義はない。心理学の専門家でない弁護士やジャーナリストが、(自分から見て)“悪質な働きかけ”をMCと呼んでいるふしがある。

 私は、MCという概念は一切使うな、とか、本人が一度「私は〇〇することに同意します」、と口にしたら、絶対に無効にできない、と言いたいわけでもない。心理学的に確立された知見がないなかで、都合のいい時にMCに言及して、約束を反故にできることになってしまえば、安心して社会生活を営めなくなるので、“MC”は慎重に扱うべき、ということだ。MCが至るところで使われるようになると、仕事を頼まれてそれを仕上げていたら、「あれはあなたにMCされて、依頼しないといけないつもりにさせられただけなので、依頼は無効だ」と言われてしまい、それがそのまままかり通るといったことになりかねない。

次のページ不当な働きかけ(MC)によるか否かを判断する際に、抑えておくべきポイント

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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